101ストーリー「ミュージシャンが語るスタンダード 」

Vol.15 楢原隼人(Poor Vacation) 2022.01.20

LEE(リー)の元祖モデル『101』を現代に伝えていくファッションストーリー。
さまざまな価値観が混在する今、そんな原点的なモデルをスタンダードと所縁の強いミュージシャンに着こなしてもらうとともに、"バンドの核=スタンダード"について再考。

彼らの紡ぎ出す音楽は、どんなことがベースとなり生まれたものなのか。昔から大切にしている原点に立ち返りながら紐解いていきたい。

第15回目は、2018年にファーストアルバムをリリースしたPoor Vacationのリーダー、楢原隼人が登場。Poor Vacationが新進気鋭のシティポップグループとして注目される一方、2020年にデビューしたユニセックスクロージングブランド・Adult Oriented Robes(アダルト オリエンテッド ローブス)のイメージ音楽も手掛けるなど、ファッションシーンとの繋がりも見せる。そんな楢原隼人にとってのスタンダードな音楽とは?

Poor Vacationはバンドというより、集合体とかコレクティブみたいな感じ

2015年に活動をスタートさせた、楢原隼人率いる都市型ポップグループ、Poor Vacation。2016年にはコンピレーションアルバム『Young Folks in Metropolis』をオーガナイズし、2018年にはグループ名を冠したファーストアルバム『Poor Vacation』をリリースした。その勢いが冷めやらぬ2019年12月には、12インチレコード『Weekend on the Moon』を発表。グループが加速度的に人気を獲得していくなか、個人での活動もまた多岐にわたり、注目を集めている。

AMERICAN RIDERS 101Z(LM5101-500)13,200円、T.Cablinのアノラックジャケット、Solovair for Props Storeのダービーブーツ、その他本人私物

— そもそもPoor Vacationは、楢原さんのソロプロジェクトとしてスタートしたという認識でいいのでしょうか?

楢原隼人(以下、楢原):もともとバンドをやり始めたのが2009年頃なのですが、最初のバンドが2014年に一旦ストップして、そのときの反省を活かしながら......。

— 反省ですか?

楢原:(笑)。前のバンドで僕はリーダー兼ギターだったんです。フロントマンは別にいたのですが、僕が彼にいろいろと要求していて、要求すればするほど彼の持ち味がどんどん消えていったんです。彼からも「オマエは1人でやったほうがいい。そのほうが思いどおりにできるし、やりやすいだろう」とはずっと言われていたんですけど、2014年頃に「そうかもな」って思い始めて、そこで自分がフロントマンになるプロジェクトをスタートさせ、2015年に最初の音源をリリースしたんです。

— 現在のPoor Vacationはバンドとして捉えていいのですか?

楢原:一応、グループって言ってるんですけど......。集合体とかコレクティブみたいな感じなんですよね。ライブメンバーよりはバンドに近いし、バンドというよりはユニットに近いみたいな。その間の関係性という感じですかね。。

— メンバーはどのように集めたのですか?

楢原:そもそもの知り合いは1人。高校の同級生が1人いて、彼女は前のバンドでもサポートしてくれていたのですが、他は全員ヘッドハンティング的に、当時近しかったバンドや好きだったバンドのメンバーに声をかけていきました。以前のバンドは仲がいいことを前提にやっている感じでしたが、そうすると当然、プレイアビリティとか感性的な部分で違和感が出てしまう。だから、Poor Vacationでは音楽性を優先してメンバーを集めたんです。

ワンウォッシュの『101Z』に同系色のアイテムを合わせ、色の濃淡と素材感でこなれ感を演出。

— 曲作りはどのような体制で行っているのですか?

楢原:基本的には僕がすべて作るんですけど、メンバーが持ってきたトラックをメンバーが膨らませて、僕は何もしないこともたまにありますね。バンマス的にアレンジだけをやるとか。だから、以前とは曲作りの意識が変わりましたよね。前はフロントマンを立たせたいという気持ちがあったので、プロデューサー的な目線で作っていたんですけど、今は自分のやりたいこと、それも企画者的な思考というか「この曲にこの要素を持ってきたらどんな感じになるだろう?」というような、サンプリングっぽい感覚で作れるようになりましたね。

楢原:ん〜。なんかよくわからないロックだった(笑)。でもたぶん、今よりクリエイションは尖ってたかな。

— ではグループの結成はプラスに作用したわけですね?

楢原:もっと早くやればよかったと思っています(笑)。アイツ(前バンドのフロントマン)の言ったとおりだなって思いました。

— 2009年に最初のバンドを組まれたということですが、そもそも音楽活動をスタートさせたのにはどのような経緯があったのですか?

楢原:本当は、大学4年のときに大学院への進学を希望していたんです。ただ当時、僕の論文を読んだ教授に実際の研究っぽくないというか、創作物っぽいと指摘されて、研究職に就きたいというよりは何かを作りたいんだろうなっていうことを実感したんです。じゃあ、何が一番好きかと考えたら音楽だったので、音楽を作ってみようか......っていう(笑)。それまでも趣味として楽器はやっていたんですけど、ちゃんとやろうと考えたのは大学を卒業するタイミングですね。

決定的に好きな4アーティストは"音楽の先生"ですね

— この特集は、デニムのスタンダードであるLeeの『101』にちなんで"スタンダード"をテーマにしているのですが、実際に影響を受けてきた音楽やミュージシャンなど、楢原さんにとってのスタンダードな音楽はどういうものですか?

楢原:決定的なのが4つあるんですけど、そのなかでも2つを挙げると、1人は山下達郎さん。『僕の中の少年』というアルバムが、よく家で流れていたんです。

AMERICAN RIDERS 101Z(LM5101-546)14,300円、steinのニットベスト、BLANCのメガネ、CONVERSE SKATEBOARDINGのスリッポン、その他スタイリスト私物

— それはご両親の趣味ですか?

楢原:母親ですね。ほかにもいろいろとかかってはいたんですけど、父親とあまり趣味が合わなくて、僕が音楽を流していると止められちゃう家だったんです(笑)。まぁ、それは仕方ないとして、数少ない音楽体験のなかでも『僕の中の少年』は特に印象に残っていて、ずっと聴いていられるし、実際に聴いてきた音楽ですね。そしてもう1つが、高校2年のときに聴いて衝撃を受けたナンバーガール。どちらもたしかにブラックミュージックの影響は強いのですが、並べてみると、衝動か洗練かっていう両極的な感じですよね(笑)。ナンバーガールについては、"NUM-AMI-DABUTZ"のシングルを同級生が教室でデカい音で流していて、それが衝撃的だったんですけど......。それまで聴いていた山下達郎さんとの決定的な違いは、やっぱり衝動的な表現というところなんですかね。

ウォッシュ加工が施された『101』には、カジュアルな印象のスリッポンを合わせてリラックス感を。
ブルーのTシャツ、ライトグレーのニットベストを合わせることで、爽やかさと軽快さをプラス。

— 一気にトップギアに入れた感じがしますね(笑)。

楢原:前体験としてはHi-STANDARDやTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTも聴いていたんですけど、やっぱり"NUM-AMI-DABUTZ"のなかに感じられるディスコやヒップホップ、ファンクっぽさが刺さったんだと思いますね。基本的にダンスミュージックが好きなので、ナンバーガールの楽曲では"omoide in my head"とかオルタナ全開なのももちろん好きなんですけど、最初に刺さったのは"NUM-AMI-DABUTZ"でした。

— バンドへの興味が高まったのはそこからですか?

楢原:「音楽ヤバっ!」って感じたのはそのときで、そこからルーツを掘りましたね。「もっとこの感動を味わいたい」みたいな気分になって。でも当時はまだウェブにあんまり情報なかったから、ライナーノーツを読むしかないじゃないですか。いろんなライナーを読んで「Pixies最高!」とか「Princeすごい!」って(笑)。最初はロックのなかでもダンスの要素があるThe Stone RosesとかXTC、Talking Headsにいきましたが、大学に入った頃からはクラブやレイブにも行き始めて、Daft Punkがきっかけでテクノやハウス、さらにレアグルーブ、バレアリックに広がっていった感じですね。

— ちなみに残り2つは何ですか?

楢原:Hi-STANDARDと小沢健二さんです。4アーティストともルーツが豊かな人ばかりなんですよね。彼らの音楽から、Steely Danってスゴいなぁとか、The Beach Boysっていいなぁとか、いろいろとつながっていく。音楽の先生みたいな感じはありますね。

— ルーツを感じられるミュージシャンに惹かれるのでしょうか?

楢原:みなさん当然、自分とは違うものを吸収されていますからね。例えば小沢健二さんだったら、最初は「オザケンいいね」って思うんですけれど、聴きまくっていくと「この楽曲のこの成分は何だろう?」と引っかかってくる。そういう目線でいろいろと聴いていると、ルーツがわかってくるという感じ。食材に近い感覚ですね。

— 普段のファッションで意識していることはありますか?

楢原:記号性のないスタイルが好きなんですよ。模様も文字も極力入っていないものが好きでそういうアイテムを着ているんですけど、実はコンプレックスもあるんです。ファッションからはちょっとズレますが、タトゥーを入れたり、PCにステッカーを貼りまくったりできる人っているじゃないですか? 僕、全く出来ないタイプなんです(笑)。プレーンにしがみついているというか。貼りたいステッカーはたくさんあるのに貼れなくて、それがファッションにも出ているなっていうのはすごく感じますね。ロゴとかキャラクターものを上手く取り入れられる人って多いですが、僕はそういうのが苦手で......。

— シルエットへのこだわりはありますか?

楢原:スタンダードっぽいけれど、ちょっとモードっぽさも見えるようなものが好きですね。切り返しの位置とか素材感がちょっと変わっているとか。

— 普段、デニムは穿きますか?

楢原:たまに穿きます(笑)。どちらかと言うと、ゆったりしたシルエットが好きなんですよ。中学1年生のとき、初めて古着屋で買ったデニムがLeeだったのを覚えています。今日はワンウォッシュの『101』とアノラックジャケットを合わせていただきましたが、こういうスタイリングもあるんだなって。新鮮でしたね。

— 楢原さんはAdult Oriented RobesやBEAMSのイメージ音楽も手掛けられていますね。

楢原:Adult Oriented Robesに関しては、母体となるレコードブティック兼レーベルのAdult Oriented Recordsから『Weekend on the Moon』をリリースしていて、その経緯からAdult Oriented Robesの2021年春夏シーズンアイテム15点すべてのイメージ音楽を制作しています。それと、実は僕自身が編集の仕事もやっていて、ある現場でスタイリストの方に名刺を渡したときに「楽曲制作もできる」と伝えたら、その方がBEAMS案件のクリエイティブも兼ねていて、それをきっかけにBEAMSのお仕事もお手伝いさせていただくようになりました。編集者としての仕事からつながっていったところもありますね。

楢原隼人
2018年に待望のファーストアルバムをリリースした都市型ポップグループ、Poor Vacationのリーダーを務める傍ら、ユニセックスクロージングブランド・Adult Oriented Robes(アダルト オリエンテッド ローブス)やBEAMSのイメージ音楽を手掛けるなど、多岐に渡り活動を行う。

— 今後の予定を教えてください。

楢原:Adult Oriented Robesから2021年秋冬シーズンに出るアイテムのイメージ音楽も制作したり、他にもいろいろ制作・リリースが控えています。あと、今後はPoor Vacationのセカンドアルバム制作にも入っていきます。『Weekend on the Moon』をリリースしたのが一昨年の12月なのでずいぶんと間が空いてしまいましたが、ようやく自分のフリーランス活動のペースが掴めたので、いよいよ次の作品を作ろうと決意を固め、動き始めたところですね。

Photo:Shota Kikuchi | Styling:Hisataka Takezaki | Hair&Make-up:Masaki Takahashi | Model:Hayato Narahara(Poor Vacation) | Text:Yuzo Takeishi | Edit:Atsushi Hasebe、Seiya Kato

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