LEE(リー)の元祖モデル『101』を現代に伝えていくファッションストーリー。
さまざまな価値観が混在する今、そんな原点的なモデルをスタンダードと所縁の強いミュージ
シャンに着こなしてもらうとともに、"バンドの核=スタンダード"について再考。
彼らの紡ぎ出す音楽は、どんなことがベースとなり生まれたものなのか。昔から大切にしてい
る原点に立ち返りながら紐解いていきたい。
第10回目は、ジャズやヒップホップ、R&Bといった音楽をベースに独自のサウンドを構築するOvallが登場。セルフタイトルを冠した渾身のニューアルバム『Ovall』のリリースも記憶に新しい彼らにとってのスタンダードとは?
101Zはベーシックであるがゆえに、個性的なトップスとの相性も良好。
AMERICAN RIDERS 101Z(LM5101-446)、FILL THE BILLのプルオーバーパーカー、UMBERのモックネックカットソー、BLOHMのシューズ
Shingo Suzuki(ベース)、mabanua(ドラム)、関口シンゴ(ギター)の3人によって結成されたOvallは、2009年、朝霧JAMでのパフォーマンスが好評を博し、デビューアルバム発表前にも関わらず一躍注目を集めた。2010年にはファーストアルバム『DON'T CARE WHO KNOWS THAT』をリリース。その後、野外フェスへの出演やヒップホップユニット・GAGLEとのコラボなどで着実に支持を獲得していくが、2013年、セカンドアルバム『DAWN』のリリース後に突如、活動を休止した。活動を再開したのは、休止から約4年後。2017年12月のことだ。
— 再始動後の心境に変化はありましたか?
Shingo Suzuki(以下、Suzuki):わりと落ち着いて演奏できるようになりましたね。 野外フェスでの演奏も、以前は大きなステージに慣れていなかったせいか、気負っていたり、ナーバスになっていたりしたように思うのですが、今は余裕が持てるようになって、楽しんでライブ活動をしてます。
関口シンゴ(以下、関口):以前よりもOvallの音楽が受け入れられやすい土壌ができているように感じるんです。初めて観てくれるお客さんもインストの曲で自然にノってくれるし。そういった変化もあって、気負いがなくなったのかもしれません。演奏していても「伝わってるのかなぁ......」みたいに感じることはないですからね。
mabanua:周りのことをあまり気にしなくなった......というか、変な力が入っていないんでしょうね。バンドってどうしても「デカいステージを目指せ!」とか「あのバンドには負けられない!」みたいな意識があって......もちろんそれが原動力になることもあるんですけど、一方でバンドや人間をおかしな方向に導いてしまうこともある。でも、今はそういった危うい精神状態ではなくなりましたね。
花柄のシャツや派手なカラーのスニーカーといった強い色味のアイテムにはやや色落ちした101Zが映える。
AMERICAN RIDERS 101Z(LM5101-526)、BRU NA BOINNEのレザーチャイナジャケット、シャツ、New Balanceのスニーカー
— 3人それぞれ、気持ちに余裕ができてきたんですね。
Suzuki:平均年齢は30代後半ですからね。ファーストアルバムを出してから8年も経つし......。
mabanua:20代半ばの頃とは違う次元にいる感覚はある......というか、その頃とは違う感覚でやらざるを得ないという気がしています。先輩たちを見ても感じるのですが、シーンがどうあろうとも、自分たちは変わらずに同じペースでやっている。僕らもそういう年齢になったんでしょうね。でも実際は、そこに到達するまでに解散しちゃうバンドが多いと思うんです。バンドって、長く続けるのが難しい形態なんですよ。そう考えると、休止期間があったにせよ、自分たちがこれだけ長く続けてきたことに対して、ちょっとは誇ってもいいのかなとは思いますね。
Suzuki:初めの頃って、気負ってた部分とか「こうじゃなきゃダメだ!」っていう感覚があって。もちろんそれも必要だとは思うんですけど、やはり人間関係でできてくるものがバンドの特色になるし、そのなかで個性を出せたら最高なんですよ。だからバンドはやっていて面白い。
mabanua:誰とでもできるものではないですからね。Ovallが休止中だから違う人とバンドを組んでやれるかっていったら、それはない。このふたりだからこそのバンドなんです。長年の蓄積があるし信頼もある。それをまた新しい人と組むっていう気には、ちょっと大変すぎてなれないですね。
Suzuki:だから、いったん白紙にはしたけれど「またOvallをやるだろう」というのはありましたね。"解散"じゃなかったのはそういうことです。そのときは続けるのが難しかったけれど、解散するつもりも特になかったですから。
— 曲作りはどういった形で行われているのですか?
Suzuki:例えば"Winter Lights"という曲だと、関口シンゴがベーシックはほぼ完成したインストの状態のデモを作ってくるんです。それに対して「こういうのもいいんじゃない?」みたいなプラスαのアイデアを付け加えながら、ドラムやベースを生に差し替えていく感じですね。
mabanua:ゼロからセッションで作ることって、実はないんですよ。むしろ、全員がプロデューサーとして活動しているので、ひとり一人で世界観を作るのは得意。であれば、各々がデモを作って、それに対して提案を混ぜ込んでいくほうが効率的なんです。ジャジーだったりフォーキーだったり、それぞれが持っているベーシックな部分も、ちょっとずつズレたり重なっていたりするので混ざりがいいですし。それに、普通は作ったデモに対して絶対に譲れない部分が出てくると思うんですけれど、Ovallの場合「ここ変えない?」って提案すると、「じゃあ変えてみようか」って通っちゃうことが多いですからね。
— 火花をバチバチ散らしている感じではないんですね(笑)。
mabanua:そのエネルギーがないのかも(笑)。力を入れるところと、「バチバチさせる必要はないんじゃない?」っていうところの分別がはっきりしたというか。
— すべてを自分で担当すると苦労された部分も多かったのでは?
関口:最初は「譲っていいのかな?」って思いもありましたけど、譲ってみたら結果的に自分が当初考えていたものよりスゴく良くなった経験が何度もあったんです。それなら、意見やアイデアをもらって作るほうが上手くいくんじゃないかと。
Suzuki:あえて余白を残しておくと自分にないアイデアが入ってきて楽しいですからね。こだわりが強過ぎると「じゃあ、それ、ソロで出せばいいじゃん」ってなっちゃうので。そこがバンドの楽しさであり、良さですよね。
Lee『101Z』
アメリカを代表する老舗デニムブランド、Leeのアイコンであり、最もスタンダードなモデル。
史上初めてジップフライが採用されたモデルで、そのストレートなシルエットは100年近く愛され続けている。
mabanuaが話すように、メンバー3人のベーシックな部分がちょっとずつズレたり重なったりしていることで、Ovallの楽曲には絶妙な化学反応が生まれている。その根底には、ジャズやヒップホップ、R&B、フォークなどのスタンダードなエッセンスが感じ取れる。
— Ovallが考えるスタンダードな音楽は、どのようなものですか?
mabanua:時間に淘汰されないものですかね。僕らだったら、ファーストアルバムを出してから8年が経ちましたが、今まで演ってきたものを聴いたときに残っているものがスタンダードな曲なんだと思います。
関口:それって、作ってるときには分からないよね。
mabanua:分からないねぇ。あとになって「今、これは演らないな」とか、「あぁ、ちょっと恥ずかしいな」って感じるものは......。
関口:スタンダードじゃなかったんだと思う。人に言われてみると「ちょっと奇を衒ったかな」とか「無理したかな」って感じるんですけど、作っているときには分からないですから。
mabanua:「イケてる!」と思ってるからね(笑)。
— ファーストやセカンドアルバムのなかでスタンダードだと感じる曲はどれですか?
関口:今、ライブで演っている曲は、たぶん僕らのスタンダードだと思うんですよ。"Take U To Somewhere"とか"mistakes"とかは自然とセットリストに入れたくなる曲だし、一方でお客さんの反応を見て「きた!」って感じる曲はスタンダードなんでしょうね。
Suzuki:オリジナリティとか、新しさとか、自分らしさを出すうえで、土台は変えずにグルーブやフレーズのアイデアを寄せ集めてひとつの方向に作っていった一例が"mistakes"なんです。それぞれのパーツはベーシックなフレーズなんですが、ちょっとしたスパイスとか構成が「あ、これってOvallらしいね」って感じてもらえるんじゃないかと思いますね。
mabanua:"mistakes"は全然推し曲じゃなかったし、スタンダードにするつもりもなかった。でもライブで演ると、お客さんがすごくいい雰囲気で聴いてくれてるって毎回感じられるんですよ。
関口:フジロックでもそんな感じがしたよね。
mabanua:受け入れられてる曲だっていうのは周りの反応で気づかされて、結果「これはスタンダードなのかな」っていう気分になってきたんです。音楽って「これだ!」って思っているものが周囲からは反応がなかったり、逆に「これじゃない」と思っている楽曲に反応があったりして、難しいんですよ。「今日はどんな曲を演ってほしいですか?」って聞くのもおかしいし(笑)。お客さんを裏切ったうえで「すごく新しいOvallのサウンドですね」って言ってもらうのもアーティストの使命だと思うし。そこはいまだに解決できないですね。
Suzuki:シンガーやラッパーをフィーチャリングすると、推し曲みたいになりがちだと思うんですけど、ライブだとメンバーで作った曲のほうが......。
mabanua:そうそう。お客さんにとってはそんなに関係ないんですよね。仮に自分たちがビヨンセをフィーチャーしたとしても、それがスタンダードになるかって言ったら絶対ならないだろうし(笑)。
Suzuki:ならない(笑)。
関口:バックバンドになっちゃう(笑)。
mabanua:そこが音楽の難しいところであり、面白いところですよね。
シンプルなニットと合わせても、101Zのシルエットの良さを体感できる。
AMERICAN RIDERS 101Z(LM5101-500)、crepusculeのニット、IcebreakerのTシャツ、COMESANDGOESのキャップ、ptarmiganのモックシューズ
— 普段のファッションにこだわりはありますか?
mabanua:適度にラフに......っていう感じですね。「Ovallきてるよね、売れてるよね」って言われてジャケットとか着始めたらイヤじゃないですか(笑)。
関口:ステージもそうですが、旅が多いからあまりカチッとできなくて、ある程度、着心地の良いものを手に取りますね。あ、宣伝じゃないですけど、アーティスト写真でもLeeのTシャツを着てます(笑)。
mabanua:お店で自分が着たいと思って手にするものって、周りからすると「それ、持ってるだろ!」って感じるらしいんです。だから最近は「これ似合うと思うよ」って言われたものを、最初は違和感があっても着るようにしてますね。
Suzuki:カチッとしているよりは、ラフな格好が好きですね。そのほうが自然なので。最近は、奥さんに「これ、いいかもよ」って言われたのを着てますね。
— デニムを穿くことは?
mabanua:冬になるとけっこう穿きますね。
Suzuki:デニムって、ごはんに例えると白飯みたいな感じ。いちばんベーシックだけれど何にでも合うし、リラックスして穿ける。
mabanua:そういえば、ちょっと高めのデニムを穿いているときと、ファストファッション系のデニムを穿いてるときでは、友だちの反応が違うんですよね......。
関口:スタンダードなものほど、いいものって違いが出るんだろうね。蓄積が細かいところでものを言うんじゃないかなぁ。
Suzuki:楽器とデニムって似てますよね。初めから古い楽器を買うのもいいけれど、新品を買って弾きこんでいくと、自分の手の形とか剥げ具合とか、古くなるとそれが良くなってくる。リジッドのデニムを買って、穿きジワがついたり色が褪せていったりして味になるのがいいみたいな。自分色になって愛着が湧くのは楽器とつながります。楽器も、味を出したりダメージをつけたりするレリック加工があるんですけど、デニムのダメージ加工と同じ。そういうデニムの価値観とか感覚もいいなって思いますね。
— 今後の活動について教えてください。mabanuaさんは8月29日にニューアルバムをリリースしましたね。タイトルは『Blurred』。ぼやけた......というような意味がありますが。
mabanua:サウンド的にもそんな感じにしました。ジャンルは限定したくないんですよ。エレクトロっぽさもあれば、ヒップホップ的な要素もあるし、フォークっぽさもある。境目がないので"滲んだ(=Blurred)"という意味のタイトルにしたんです。それに、インディーやメジャーを問わず、特定のフィールドで活動しているわけではない自分のスタンスも"Blurred"なのかなっていう思いもあって。
— Ovallとしてはいかがですか?
関口:今年はフェスへの出演がいくつかあります。あとは今、音源を作っている真っ最中ですね。
mabanua
ドラマー、ビートメーカー、シンガー。
さまざな楽器を操る他に類を見ないスタイルのアーティスト。プロデューサーとして100曲以上の楽曲を手がけ、CM楽曲や映画音楽の作品も数多い。Toro y MoiやThundercatなど海外アーティストとも共演も多く、2010年代のトレンドを作り上げたクリエイターの一人とも評される。この8月末にニューアルバム『Blurred』をリリースしたばかり。朝霧JAM 2018にも出演が決定した。
http://mabanua.com
関口シンゴ
ギタリスト、コンポーザー、プロデューサー。
ギタリストとしてChara、秦基博、矢野顕子など様々なアーティストをサポート。2015年には初のソロアルバムをリリース。iTunesオルタナティブチャートで2位となるなど各所で話題となる。ソロアーティストとしてもFUJI ROCKを始め大型フェスに数多く出演した他、アジアやヨーロッパでもライブ行い評判を呼ぶ。
http://shingosekiguchi.com
Shingo Suzuki
ベーシスト、キーボーディスト、プロデューサー、トラックメーカー。
2008年にリリースした1stソロアルバム『The ABSTRUCT TRUTH』はヨーロッパ各国のHIP-HOPチャートでTOP10入りするなど世界中で大ヒットした。矢野顕子からPUNPEEまで、ジャンルも多彩な多くのアーティストをベーシスト、プロデューサーとしてサポートする他、CMの楽曲も数多く手がけている。
http://shingosuzuki.com
Ovall
Shingo Suzuki (ベース)、mabanua (ドラム)、関口シンゴ(ギター)による3ピースバン ド。2010年に1stアルバム『DON'T CARE WHO KNOWS THAT』をリリース。このデビューアルバムがiTunes HIP-HOPチャートで1位を獲得。またFUJI ROCKやSUMMER SONICといった大型フェスでのライブが評判を呼び、シーンの注目バンドとなる。2013年、2ndアルバム『DAWN』をリリースした後、活動を休止。2017年に活動を再開。4年振りの新曲「Winter Lights」にレア音源を合わせた『In TRANSIT』アルバムをリリース。2018年にはOvallとして国内外でライブを行い、FUJI ROCKでのステージはTwitterトレンドで2位となるほど評判を呼んだ。
http://ovall.net
■収録曲 | |
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Disc-1 | |
01.Stargazer | |
02.Transcend feat. Armi (Up Dharma Down) | |
03.Dark Gold | |
04.Come Together | |
05.Slow Motion Town | |
06.Triangular Pyramid | |
07.Paranoia | |
08.Rush Current | |
09.Desert Flower |
■収録曲 | ||||||||
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Disc-1 | ||||||||
01.Stargazer | 02.Transcend feat. Armi (Up Dharma Down) | 03.Dark Gold | 04.Come Together | 05.Slow Motion Town | 06.Triangular Pyramid | 07.Paranoia | 08.Rush Current | 09.Desert Flower |