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101ストーリー「ミュージシャンが語るスタンダード 」

Vol.08 Kaoru Inoue 2019.08.02

LEE(リー)の元祖モデル『101』を現代に伝えていくファッションストーリー。
さまざまな価値観が混在する今、そんな原点的なモデルをスタンダードと所縁の強いミュージシャンに着こなしてもらうとともに、“バンドの核=スタンダード”について再考。

彼らの紡ぎ出す音楽は、どんなことがベースとなり生まれたものなのか。昔から大切にしている原点に立ち返りながら紐解いていきたい。

第8回目は、常にオルタナティブなダンスミュージックを追求してきたKaoru Inoueが登場。
1994年にchari chari名義で音楽制作をスタートする一方、DJとしても第一線で活動し続けており、日本を代表するアーティストの一人としてリスペクトされる彼にとってのスタンダードとは?

最初は「CD出しても買う人いるんですかね?」って思ってた(笑)。

101Zのシルエットはベーシックなストレート。
それゆえに、デニムで大人っぽい着こなしをするのにも向いている。
AMERICAN RIDERS 101Z STRAIGHT(LM5101-500)、salvy;のシャツ、カットソー、SPECTUSSHOECO.のブーツ

—『Em Paz』は、2013年発表の『A Missing Myth Of The Future』から約5年ぶりのニューアルバムとなりましたが、周囲の反応はいかがですか?

Kaoru Inoue(以下Kaoru):『Em Paz』はポルトガルのレーベルからリリースしたんです。過去、日本で制作したアルバムを海外のレーベルがライセンス取得して発売する……ということはあったのですが、今回は初めて海外レーベルから単体でリリースしました。……というのも、そのレーベルに5年前くらいから「やらないか?」って誘われてたんですよ。いいタイミングが重なって、今年ようやくリリースすることになったのですが、海外のDJとか音楽が好きな人たちから反響がありますね。初めてのことで、僕自身もすごくいい経験になりました。

—新作はアンビエント色が強い印象ですが、こういう作風になった経緯について教えてください。

Kaoru:昔から音楽を聴く時間を大事にしているんですけど、新作はわりと、今自分が聴きたい方向に寄せた感じ。それと、今回リリースしたのはポルトガルの Groovement Organic Seriesっていうレーベルなんですけど、そこは”楽器を入れる”ってことだけがコンセプトなんです。しかも、このレーベルが僕の作ってきた音を結構知っていて、「アルバムは既出の作品も絡めていい。任せる」と言ってくれたので、それならあまり逡巡しないでできそうだな……って思ったんですよ。ダンストラックでも、ビートなどの要素を省くとアンビエント的な面白さが出てくることを、過去の作品で経験していたりもしたので。

—アンビエントを好むようになったのはいつ頃からですか?

Kaoru:10年前くらいに、音楽評論家の三田格さんがアンビエントの歴史をまとめた『アンビエント・ミュージック』というムックを出されたんですけど、それが面白くて。それを読んでから、やたらとアンビエントを買うようになりましたね。ハウスとかテクノとは音が全然違うんですけど、自分のなかでは地続きみたいなところがあるんです。レイヴパーティでもアンビエントのサブフロアみたいなのがあるじゃないですか。そういうのを現場で経験しているから、地続きになってるのかもしれませんね。

—新作は3月にアナログ、6月にはCDでリリースしていますが、アートワークを変えた理由は?

Kaoru:ele-kingの野田努さんから取材のオファーを受けてひさしぶりに会ったんですけど、そのときに「CD出したほうがいいよ」って言われたんです。最初は「CDを出しても買う人いるんですかね?(笑)」なんて話していたんですけど、やりとりをするなかでP-VINEからリリースすることになった。ポルトガルのレーベルには、ワールドワイドの販売権を一任していたんですが、「日本国内でCDだけ販売する」と説明したらそれだけは除外してくれたんです。その後、せっかく形態を変えるなら外見は変えたほうがいいよね……っていう話になって、ジャケットはコラージュアーティストのM!DOR!さんにお願いしました。彼女のコラージュワークってすごく面白くて僕もファンなんですけど、今回はコンセプトを伝えて、あとはほぼお任せでしたね。

Lee『101Z』
アメリカを代表する老舗デニムブランド、Leeのアイコンであり、最もスタンダードなモデル。
史上初めてジップフライが採用されたモデルで、そのストレートなシルエットは100年近く愛され続けている。

—時間を戻しますが、元々パンクやロックのバンドで活動されていて、1989年にAcid Jazzの洗礼を受けたとありますね。

Kaoru:大学生のとき、クラブキングがウェアハウス・パーティとか革命舞踏会をやっていて、音楽が好きだったから覗いてみたんです。一晩中DJをやっているのを見るのはそれが初めてで、衝撃を受けましたね。そのときロンドンのジャズシーンを紹介していて、DJに加えてバンドやダンサーも呼んでいたんです。パリッとした格好をして、4ビート・ジャズでアクロバティックに踊っているのがものすごくカッコよかったんですよ。それがきっかけですね。

—民族音楽にハマったのもその頃ですか?

Kaoru:そのあたりは、ほぼ同時進行ですね。ロックを演っていた頃、ギターがきっかけでアフリカ音楽を教えてもらったりとか。それと、例えばアフリカ音楽とハウスとかをDJでミックスするような世界にはものすごく影響を受けて、「なんでも交ぜられるんだ」と感じたことは覚えています。そのときの衝撃があって今に至る……っていう感じですね。

—バリ島やジャワ島にも頻繁に行かれていたようですが、それは現地の音を生で体感したかったからですか?

Kaoru:特にインドネシアは音楽の宝庫みたいなイメージがあって、大学のときに行き始めました。ジョグジャカルタっていう古都があって、そこでは夜、ストリートに流しのミュージシャンが大勢来て、演奏して投げ銭をもらうみたいなことをやっていたんですよ。ガムランとかクロンチョンを聴きたいと思って出かけていたんですが、ほかにも東南アジアっぽい旋律で変なブレイクビーツみたいのを演ってる人がいたりとか、かなり面白かったですね。

音楽の新しいスタンダードを自分が作れたらいいですよね。

色落ちしてないリジットの101Zを選べば、ドレッシーなスタイルにもフィットし、より大人でモードな着こなしに。
AMERICAN RIDERS 101Z STRAIGHT(LM5101-500)、O -のジャケット、JUHAのモックネックロンT、 EYEVAN 7285のサングラス、BLOHMのシューズ、その他スタイリスト私物

—スタンダードな音楽については、どのように捉えていますか?

Kaoru:振り返ると、”いかにスタンダードではなく、いかにオルタナティブか”みたいなマインドが続いていたと思いますね。ただ、経験値が上がっていくと、スタンダードっていう軸があって初めて異端があることが分かるようになるんですよ。ハウスでもテクノでもどんどん細分化されていますが、ハウスを例にとっても、長い歴史のなかでいろんな部分が削ぎ落とされて今のカタチになっている。だから、実はスタンダードってずっと残っているし愛されているんだなって思いますね。そういったものへのリスペクトはあってしかるべきだっていうのは、40代に入ってから特に感じるようになりましたね。

—それは音楽以外でも感じますか?

Kaoru:服とかはそうですよね。僕は夏場以外、ほとんどジーンズしか穿いていないんですけど、デニムってスタンダードの極みですよね。洋服の世界も奥が深いので、ちゃんとしたことを言える立場にはないですけど、デニムって長い歴史のなかでいろんな部分が削ぎ落とされながらずっと残っているものだと思う。だから、最終的にはそこに戻っていくというか、大事さが分かって非常に重宝するものなのかなって思いますね。

—10年後や20年後も時代を超えて愛されるように……と意識して音楽を制作することはありますか?

Kaoru:いかに残せるか、残るかっていうことを考えるようになりましたし、今はそっちに向いていますね。時代感って結構大事で、自分自身はそのときに何が起こっているかを見ているし、体験もしているわけじゃないですか。なかでも音楽制作の技術はどんどん変わっていますが、その根本的な部分を自分自身がクリエイトできれば……っていうのは考えますね。新しいスタンダードを作れたらいいなって。

—今後の活動について教えてください。

Kaoru:創作意欲が高まっているので、今は曲をどんどん作っていくタイミングかなと思っています。ハウスとかテクノに特化するのではなく、もう少し電子楽器をフィーチャーしたり、友だちのミュージシャンに参加してもらったりしつつ、自分自身でアレンジもやりながら築き上げていきたいですね。そうすると今後、例えばフェスのような、クラブとは違う環境でプレイする機会も増えてくるんじゃないかと思いますしね。

Kaoru Inoue / 井上薫
(Seeds And Ground | Chari Chari)DJ / プロデューサー。
高校時代から20代前半までパンク~ロックバンドでのギタリスト経験を経て、89年にAcid Jazzの洗礼とともにDJカルチャーへ没入。Chari Chari~Kaoru Inoue名義での音楽制作~リミックスで数々の功績を残し、またクラブ、野外フェス問わず様々な現場でのDJ活動を通してオルタナティブなダンスミュージックの可能性を追求してきた。2014年、12年ぶりにChari Chari名義を復活させ、ライブ・バンドとして再生。インドア・フェス=RA@ageHaにて復活デビューを果たし大きなレスポンスを得た。2016年にはChari Chari名義14年ぶりのアナログリリース「Fading Away / Luna de Lobos」が話題に。2018年はリスニング指向を高めたアナログLP 『Em Paz』がポルトガルのレーベルGroovementよりリリース。
レーベル”SEEDS AND GROUND“を主宰。

EM PAZ

レーベル:bpm tokyo
品番:BPMT-1013
価格:2,500円 + 税

井上薫による5年振りのニュー・アルバムは至高のアンビエント~チルアウト~サウンドスケープ集。既にポルトガルのGroovement Organic Seriesからリリースされたヴァイナルヴァージョンはレーベル側でも早々に完売。こちらの日本盤CDにはボーナストラックが2曲追加収録されており、見逃し厳禁のリリースとなっています。本人によるライナーノーツも読み応え十分。
Photo:Shota Kikuchi | Styling:Hisataka Takezaki | Hair&Make-up:Saori Hattori | Model:Dos Monos | Text:Yuzo Takeishi | Edit:Atsushi Hasebe | Special Thanks:PRIMITIVE INC.

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